フリージャーナリスト北角裕樹氏帰国報告会の会見報告

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2021.06.18

ミャンマーで身柄を拘束されていたジャーナリスト・北角裕樹さんが5月21日にインセイン刑務所から解放され、20日間が経過した。国内ではミャンマーに関する報道が減少の一途をたどっている。だが、現地では4400人がまだ収監中。軍事政権の動向については予断の許されない状況が続いている。
「院内集会『フリージャーナリスト北角裕樹さん帰国報告会』」が6月9日、参議院議員会館(東京・永田町)101会議室で開かれた。副題は「ミャンマーで今、何が起きているのか? 私たちに何ができるのか?」。国会議員や在日ミャンマー人、ジャーナリストなど約50人が参加した。


集会に先立ち、衆議院は6月8日、本会議で「ミャンマー軍における軍事クーデターを非難し、民主的な政治体制への早期回復を求める決議」を採択。11日には参議院でも同様の決議がなされる見込みだ。
集会を主催したのは「ミャンマーの民主化を支援する議員連盟」(会長・中川正春衆議院議員/事務局長・石橋通宏参議院議員)。議連は衆参両院での決議を主導し、ミャンマーにおける民主体制の早期回復に向けた連携・協力のために多面的な活動を展開してきた。
集会では北角さんがまず「帰国報告」を行った。


「多くのミャンマー人には『独裁は許されない』という強い思いがあります。私はジャーナリスト。ミャンマーで起きていること、ミャンマーの人が思っていることを情報発信していきたい」
続いて「ヤンゴン在住のAさん」から現地の情勢について報告があった。「顔出し・実名では国軍に逮捕される可能性もある」ことから、匿名でボイスチェンジャーも使った上での発言となった。
「商店が営業し、買い物客も戻り、クルマの交通量も増えてきました。表面的には回復しているように見えますが、それは表面的な姿に過ぎない。市民の中に入ると、全然違います。
買い物をするにしても、店員が警戒し、ぶっきらぼうな応対となっている。以前は見られたヤンゴンの人たちの人懐っこさはありません。冗談さえ言えない雰囲気です。
軍の締め付けは巧妙で油断ならなりません。街中で軍人を見る機会は減りました。今、どこにいるのか? 一部は地方に展開していると見られます。
市民生活で困っているのが銀行の利用です。一般の口座からは1日に日本円で1万4千2百円程度しか引き出せない。ATMの列に1日並ぶ必要があります。一方でブローカーがいて、10〜30%の金額を渡すと、すぐに降ろせます。
本心から軍に賛同している市民は少ない。暴行への恐怖や生活のため、仕方なく従っているだけです。
自分でできる抗議活動をしています。毎晩8時には「鍋叩き」。税金や電気料金の不払いなどです。軍の統治が長引いても、抵抗はずっと続いていきます。
ヤンゴンは一見落ち着いていますが、裏ではいろいろなことが起きている。ミャンマーがこれからどうなるか。誰にもわかりません。
こういう状況ですが、最後まで見届けていきたいと思います」
集会の第2部は「私たちに何ができるのか?」と題するパネルディスカッション。Aさんの報告を受け、北角さんが発言した。
「私はメッセージを託されています。まだ4400人が身柄を拘束されたままです。
私の解放が他の政治犯にもつながればと思ったが、そうはなっていません。今後は個別の中にいる人を支えていきたい。
その一人が映画監督、俳優として有名なルミンさんです。インセイン刑務所で私は彼と同じ棟にいました。
ルミン監督は昨年からアウンサンスーチーさんの父・アウンサン将軍の歴史映画を撮影。90%まで終わっていました。
2月に監督が逮捕されたあと、映画は軍の手によって製作され公開の準備が進んでいる。ルミン監督は「絶対に許さない」と危機感を抱いています。
日本で支援をしていく上では当事者意識をどう持ってもらえるかが重要。ミャンマー人のことをわかってもらい、身近に感じてもらう必要があります。単に『ニュースで見た国』というより、『私たちの友達がいる国』と思ってほしい。
映像作家の友人がまだ中にいます。彼の作品を見てもらい、無実の罪で囚われていることを訴えていきたい。
コロナ禍からクーデターを経て、3000〜4000人いた現地の在留邦人は数百人に減っています。一方で経済活動のため、日本からミャンマーに向かう日本人も増えています。
外務省が出している「海外安全情報」によれば、ミャンマーは現在「レベル2:不要不急の渡航は止めてください。」です。しかし、クーデター以降100人が殺され、ロケットランチャーも使われている。
この情報には違和感があります。企業の活動に差し障りがあるからでしょうか。米国は大使館員も含めて退避させています」
会場に詰めかけた在日ミャンマー人の中にも軍の虐待について友人や知人を通じ、具体的に知っている人は少なくない。
パネリストとして「日本ミャンマーMIRAI創造会」のミャンマー側代表・Swe Sett Ayeさん、日本側代表・石川航さんも発言した。
ファシリテーターとして望月衣塑子さん(東京新聞記者)も登壇。参加した当事者に向け、記者会見などの手段で「声を上げること」の重要性を指摘し、その場で模索が始まった。
望月さんは北角さんが拘束されて以来、署名活動や記者会見、シンポジウム、外務省との折衝などを通じ、即時解放に向けて動いてきた一人だ。
集会の最後は北角さんが締めくくった。
「これが民主主義だと思います。いろいろ問題はありますが、日本では民主主義がまだ機能している。在日ミャンマー人や日本の市民が声を出し、国会議員が動き、外務省が対話に踏み切れない中、独自の外交を訴えている。それでも政府は動きつつあると感じています。
アウンサンスーチーさんの言葉に『自由のある人は自由のない人のためにその自由を使ってください』があります。
一緒に戦っていきたい。頑張りましょう」

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