【第12回日本ジャーナリスト協会賞】大賞作品発表

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2023.07.27

第12回日本ジャーナリスト協会賞概要

第12回日本ジャーナリスト協会賞大賞作品が決定いたしました。
同賞は2012年1月27日に弊会の設立1周年を機に、すべてのジャーナリストを対象にしたジャーナリズム賞として創設したものです。

一般投票と外部選考委員を交えた最終審査を経て、以下の作品を大賞作品として決定させていただきました。
投票にご協力いただきました皆様には心より御礼申し上げます。

■対象作品■

2022年1月1日から2022年12月31日までの期間に取材、報道、評論活動などを行い、ジャーナリズムの信用と権威を高めた作品。

第12回日本ジャーナリスト協会賞

『いじめの聖域 キリスト教学校の闇に挑んだ両親の全記録』石川陽一(文藝春秋)

外部選考委員・元木昌彦氏による講評

■第12回日本ジャーナリスト協会賞■

『いじめの聖域』

有名な海星高校で起きた「いじめ自殺事件」。学校側の頑なな対応に腹が立ちます。両親が学校側と対峙するとき、その様子を録音していたため、リアルなやり取りが読め、自分もその場にいるような気にさせます。読みどころは、事件が明るみに出ても、海星高校に慮って地元紙はほとんど触れないというところでしょうか。単なるいじめ自殺事件というだけではなく、広がりのあるノンフィクションだと思います。受賞作にふさわしいと思う。

一般からの推薦文を一部記載いたします。

息子を自殺が原因で亡くしたご両親は、勇斗さんのことを語るたびにきっと痛いほどの悲しみに襲われたと思います。その悲しみと、息子の死を無駄にしたくない、もう二度と同じことを繰り返してはならないという強い願いを、石川記者が熱意を持って受け止め続けたことで生まれた作品なのだなと感じました。

時系列がよく整理されており、描写がとても具体的で、背景には膨大な取材量があるのだろうと想像しました。日本ジャーナリスト協会賞に相応しい作品だと思います。

地元紙をはじめ、他社が積極的に報じてこなかったいじめの背景にある問題に光を当てた。

学校側は形としては向き合う姿勢はとっているものの、実際には根本的な解決になる行動はとっていない。遺族への綿密な取材から、そのことについて鋭く突いている。教育とは何か、メディアとはどうあるべきか、様々な問題提起を含んだ、ボリュームのある一冊である。

いじめを巡る学校側の対応のみならず、私立高校を所管する県、地元メディアの不可解さにまで切り込んだ作品。ジャーナリズムが機能不全を起こした社会の末路はなんてむごたらしいのか。社会に鋭く問いかけるこの一冊こそが、大賞にふさわしいと考えました。何より、遺族が報われることを心より願っています。

■受賞の言葉■

石川陽一氏
このたびは拙著が名誉ある賞に選ばれたことを、心から光栄に思います。とはいえ、私は自分が何か特別なことを成し遂げたとは全く考えていません。プロのジャーナリストとして、その職責を果たしただけです。
「いじめの聖域」は、長崎市の私立海星高で起きたいじめ自殺を追ったルポです。亡くなった勇斗くんの両親は、想像すら憚られるような絶望の中、「同じような犠牲者を生み出したくない」という一念のみで立ち上がります。
ところが、学校側はこの願いを受け入れません。自殺の「突然死」や「転校」への偽装提案に始まり、遺族が求める加害者への指導やクラスでの命についての話し合いなどを、ことごとく拒否します。
揚げ句の果てには、第三者委員会による「自死の主たる要因はいじめ」との認定を受け入れないと言い出します。遺族はこの間、長崎県にも助けを求めていましたが、「海星高は真摯に対応している」と取り合ってもらえません。それどころか、当時の県担当者は「突然死まではギリ許せる」と隠蔽の持ちかけを追認してしまいます。
孤立した遺族は、ジャーナリズムの力を必要としていました。そこにたまたま記者として居合わせたのが私です。
記者の仕事は、市民の代弁者として権力を監視し、何か過ちを犯せば批判して正すよう求めることです。それを全うするために様々な特権が与えられています。だからこそ、記者が明らかな不正義を知っていて見過ごすというのは、背任であるだけでなく、不正に加担する行為だと言えます。
残念ながら、地元メディアで遺族の期待に応えようとする報道機関はありませんでした。それどころか、県を擁護して遺族を切り捨てた会社もありました。地元紙である長崎新聞です。もはや報道機関を名乗る資格はありません。
被害者を助けるべきジャーナリズムが機能せず、むしろ学校や行政の加害に手を貸すという構図が完成していました。こうした構造的な問題を、「いじめの聖域」というタイトルに込めたつもりです。
本の出版後、長崎新聞が共同通信に「名誉毀損だ」と抗議しました。文句があるなら版元の文藝春秋に言うべきですが、それはしていません。何を恐れているのでしょうか。
圧力に屈した共同通信は、今年5月に私を記者職から解任しました。それでも後悔は全くありません。私は会社員である前にジャーナリストだからです。今回の受賞は、それを肯定して頂けたようで非常に嬉しいです。

開催概要

主催:公益社団法人 日本ジャーナリスト協会
運営:公益社団法人 日本ジャーナリスト協会
趣旨:公益社団法人 日本ジャーナリスト協会 定款に基づき取材、報道あるいは評論活動などを通じて、ジャーナリストとして顕著な業績をあげ、ジャーナリズムの信用と権威を高めた作品を顕彰するものです。
選考:日本ジャーナリスト協会役員、運営委員を中心とする選考委員会
表彰:大賞授賞式の開催を予定しております。

2023年7月27日
公益社団法人日本ジャーナリスト協会 アワード選考委員会

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