自民党が昨年11月、テレビ朝日の個別の番組に対しても報道圧力と受け取れる文書を送っていたことが、4月8日付けのノーボーダーの報道で明らかになりました。
問題の文書は、同局の「報道ステーション」がアベノミクスの効果が国民全体に及んでいないと放送したことに対して、放送法上の問題があると指摘し、「公平中立」な番組づくりを求めるという内容で、同番組のプロデューサーあてに送付されています。
自民党はこれに先立ち、在京民放キー局各社の報道責任者に対しても、選挙報道に関して「公平中立」を要請する文書を出しています。内容は、出演者の発言回数や時間、ゲストの選定、街頭インタビューの編集にまで注文をつけるなど、明らかな放送介入といえるものでした。公益社団法人自由報道協会では、政権与党によるこうした「申し入れ」は、権力による番組編集権の侵害に当たるとして、12月2日付で強い抗議の意志を表明しています。
もとより、放送法(第4条)が定める「公平」は放送局が自律的に判断するべきものです。一方の当事者である政党、とりわけ政権与党が言うべきものではありません。放送法はまた、第3条で〈何人からも干渉され、又は規律されることがない〉と「放送番組編集の自由」を謳っています。一連の自民党からの要請は、こうした法の精神を大きく逸脱したものです。
今回、新たに明らかになった「報道ステーション」に対する要請文は、個別番組の個別の放送内容について、放送免許の許認可権限に直結する放送法に言及している点で、より強い「圧力」であり、明白な番組編集権の侵害だと考えます。
文書を送った自民党は、ノーボーダーの取材に対して「アベノミクスについて、客観的なデータをお知らせしたもので圧力とは考えておりません」と説明し、テレビ朝日は「文書を受領したことは事実ですが、番組では日ごろから公平公正を旨としており、特定の個人・団体からの意見に左右されることはありません」とコメントしています。 しかしながら、昨年末の総選挙、今年の統一地方選挙前半では、従前に比べて選挙関連のテレビ報道が激減し、未曽有の低投票率につながったとの指摘があるのも事実です。
政権与党からの「要請」が報道現場への「圧力」となり、選挙報道の「自粛」につながることはなかったか。検証の必要があるでしょう。
政党がメディアの報道に対して偏りがあると判断したら、やるべきことは、メディアに対して「裏」で圧力をかけることではなく、反論権を主張するなど、「表」の言論の場で正々堂々と議論することです。一方、権力側からこうした文書を受け取った側は、受け取った事実を隠蔽するのではなく、積極的に公表し、「公平とは何か」の議論のきっかけとするべきだったと考えます。
公益社団法人自由報道協会は、民主主義の根源的価値である「国民の知る権利」を担保する報道の多様性と自由な取材機会が保障される社会の実現をめざす目的で設立された公益社団法人です。したがって、与野党を問わずいかなる政党であっても、報道の自由と多様性を抑圧する行為については厳重に抗議をしていきます。本件ケースにおいては、「報道ステーション」に文書を送付した自民党に対して改めて抗議するとともに、こうした権力側からの圧力行為が、視聴者・読者の見えないところで処理されている現状に強い懸念を表明します。
※上記声明を作成した直後、自民党が4月17日にNHKとテレビ朝日の経営幹部を呼び、報道番組の内容をめぐって事情聴取するというニュースが流れました。当協会では、一連の圧力行為の一環として、この動きについても重大な関心をもって見ていきます。