第二回自由報道協会賞は2012年中に行われた報道・発信活動を対象に、日本社会の人権・民主主義を擁護、推進し、自由で公平な言論空間の確立に貢献した人・作品に贈られる。
やはり原発事故と放射能汚染・被曝の危険性についての報道に出色のものが揃った。東日本大震災以降の被災者支援・被災地の現状を描いた報道も多かった。
他方、年も押し迫って行われた総選挙に関する検証報道は締め切りまでの時間が限られたこと、また貧困・格差の問題を追及する報道の印象が薄れてしまった感は否めない。これらの分野については今後に期待したい。
Ⅰ)「大賞」
広瀬隆さん(1月24日で満70歳)は79年のスリーマイル島原発事故以来、原発の安全性に疑問を呈し告発しつつ、放射能の人体への影響などの問題を一貫して訴えてきたジャーナリストである。3・11後は原発の撤廃を求める広範な人々の大規模抗議デモを、大手メディアが軽視するのとは逆に、広瀬さん主宰の「正しい報道ヘリの会」はヘリコプターをチャーターしインターネットで報道した。この広瀬さんたちの報道で反原発行動の取材に消極的な大手メディアに批判が相次ぎ、報道姿勢を変えるなど、反原発デモ報道の流れを変えるきっかけになったのは高く評価したい。
次点となった山本美香さんは御存じ、昨年シリアの内戦取材で政府軍と見られる兵士の銃弾に倒れた戦争ジャーナリスト。山本さんが際立ったのは何と言っても、子どもや女性、お年寄りといった弱い立場の人たちの視点から内戦を取材してきた点だ。山本さんの貢献は広瀬さんと比較しても決して見劣りがするものではない。
Ⅱ)「調査報道賞」
福場ひとみさんは、大手メディアが取り上げない被災地復興予算の流用問題を、「週刊ポスト」誌を通していち早く、かつ継続して取材・報じてきた。それが半年後に大手メディアも後追い報道を余儀なくさせられ、日本社会での報道の流れを変える一例となった。復興予算は被災地の復興を支援したいという国民の善意を元に所得税を5年間引き上げた上で組んだもの。それを被災地復興支援とはコジツケでしかないが各省庁に渡って巨額に上ることを明らかにした。一種、集団犯罪、と言っても良い醜態を白日のもとに晒し、我々が一体いかなる政府を養ってきたのかを考えさせた意義は大きい。
福場さんの継続した取材・報道には週刊ポスト誌の編集長や編集スタッフの問題意識と姿勢があったことが大きいが、インターネットで公開された復興予算一覧の中から、具体的にどう使われているのかを取材した手法にもインターネット時代の可能性を切り拓いたと言える。
次点になった堀川惠子さんの「永山則夫 100時間の告白 封印された精神鑑定の真実」(ETV特集)は詳細な精神鑑定を無視し永山則夫囚の死刑執行をした日本の裁判の闇を告発したもの。堀川さんは粘り強く通って、精神鑑定を行った担当者の信頼を得て精神鑑定のテープを借り受け、崩れ落ちる寸前のテープを辛抱強く修復して字に起こし、それから関係者を訪ねて取材をした。テレビ番組は一人の個人だけで制作・放送するのは不可能で幾つもの職種の担当者たちの共同作業なしには成立しない。NHKのETV特集は優れたドキュメンタリーを幾つも制作しているが、このETV特集は堀川さんという個人のジャーナリストの強い意志と力があればこそ実現しえたものと考えられる。
Ⅲ)「3・11報道賞」
「DAYS JAPAN」(編集長・広河隆一さん)は、かつて講談社で発行され廃刊になった同名の雑誌を、編集関係者が改めて2004年に立ち上げたもの。以来、写真を重視しながら一貫して原発、環境問題、人権、内戦などの課題を取り上げてきた。東日本大震災・東京電力福島第一原発事故以降は福島および東日本での原発や放射能関連の問題を追い続けている。2012年に特筆されるのは「DAYSJAPAN増刊 検証原発事故報道~あの時伝えられなかったこと~」で原発事故の直後の1週間の大手メディア(テレビ・新聞)の朝から晩までの報道を改めて一つ一つ検証して一覧にまとめたもの。この増刊を見れば政府と大手メディアが如何に一体化して情報を流していたかが、一目で判る出色の力作である。広河さんを始め「DAYS JAPAN」の編集関係者の不屈の努力なしには日の目を見なかった貴重な記録となっている。
次点になった「週刊金曜日」も一貫して原発事故後の放射能汚染の報道を始め政府、原子力村の動き、被災地・被災者の直面する困難を追っている。その報道の優れた報道は何時、読み返しても納得されるものである。
Ⅳ)「マイクロ・メディア賞」
「おしどりマコ」さんの「おしどりマコ・ケンの脱ってみる?」を始め、インターネット・ブログやツイッターを使って原発事故の放射能汚染の被害に苦しむ福島の人たちとの交流を続けながら、被災者の現状、直面する問題点を紹介している活動が評価された。
同時に放射能に関するマコさん自身の専門的な知識を活かし政府、東京電力、原子力学者たち、IAEAと言った原子力村の流す情報に惑わされることなく問題点、醜態の様について告発し、マイクロ・メディアの影響力を無視できないものにしている。
次点となった雨宮処凛さんはとにかく大手メディアが無視している貧困の問題を一貫して、日々の生活の中で貧困に苦しむ人たちを交わりながら提起している。雨宮さんのブログの際立つのは貧困の問題は民主主義と人権、平等の問題と深く関わりあっていることを明確に打ち出し、字際に問題克服に関わっている点だ。雨宮さんは行動力の点からメディア・アクティビスト賞の候補にも挙がった。
Ⅴ)「ローカル・メディア賞」
選考委員会で共同受賞の意見も出された結果、北海道で「北方ジャーナル」を主宰する小笠原淳さんにお贈りすることになった。小笠原さんは北海道庁や北海道電力など札幌政財界の大きな力を前に、問題点を取材・報じてきた、文字通り孤軍奮闘する地方のジャーナリストと言うことができる。各都道府県にある記者クラブの開放度、閉鎖性を丹念に取材した「倶楽部は踊る~記者クラブはどこへ」は日本社会が北海道から九州・沖縄までその地の主要メディアだけが属する記者クラブが如何に情報を操作し、有権者に伝えられない大事な情報が幾つもあることを考えさせる。
次点には仙台市を活動拠点に東北を主題に活動する出版・編集者の集団「荒蝦夷」になった。『鎮魂と再生 [東日本大震災・東北からの声100]』は被災地・東北の包含する問題が見えている。
Ⅵ)「知る権利賞」
この賞も最後まで議論が続き結局、福島第一原子力発電所事故に関する「国会事故調査委員会」委員長で大学大学院アカデミック・フェローの黒川清さんにお贈りすることになった。
福島第一原発事故に関しては国会の事故調査委員会の他に政府、東電、それに民間の、合わせて4つの事故調査委員会が作られた。その中で「国会事故調査委員会」の意義は、国権の最高機関である国会が期間限定とはいえ、初めて包括的な調査委員会を立ち上げたこともあるが、その調査活動と「調査報告」が圧倒的に秀逸な点である。当時の総理大臣、経済産業大臣から原子力委員会、東京電力の関係者、それに被害者までに聴きとり調査を行い、事故の核心を突くまで調査が行われたこと。委員に福島の被害者の方が名前を連ねたこと。そして忘れてならないのは、報告が全て公開されたこと、委員たちも隠さずに証言していることである。情報の公開は健全な民主主義社会の基礎であることを忘れてはならない。この「国会事故調査委員会」の委員たちは、それを体を張って実践したと評価したい。
次点には『検察の罠』を出版した参議院議員・森ゆう子さんとなった。森さんは衆議院議員小沢一郎氏に対する一連の事件の背景を「議員調査権」を使いながら調査した。森さんの調査で、選挙で選ばれた政治家に対し、司法公務員に過ぎない検事たちが如何に恣意的・政治的で違法捜査をしてきたか、を具体的にしただけでなく、公正であるべき裁判所までが事件の一端を担っていることまで、日本の司法界の闇を暴きだしている。「議員調査権」を本格的に使った初めての例と言って良い。その議員調査権に対し、日本の官僚集団がいかに誤魔化し、隠蔽しているかを世に出した、日本の民主主義が未だ成熟には程遠い実態を国民に知らせた意義は大きい。
Ⅶ)「メディア・アクティビスト賞」
この賞はほとんど全員一致で「首都圏反原発連合」(ミサオ・レッドウルフさん)にお贈りすることにした。
「首都圏反原発連合」のデモ活動は幾つもの点で日本社会にとって画期的だといえる。お年寄りから子供まで一般市民が強制でなく自主的に随時参加していること。炎天下、雨天、寒空に拘わらず定期的に継続していること。規制する警察に対しては最初から計画書を出し、事前に細かく打ち合わせをしている。いわば、警察をこれまでの規制だけでなく集会参加者を見守る側にしたこと。自主的な行動規範を定め、整然と行動し、終了後は管轄の警察署に伝えることも欠かさず、警察との間に信頼関係を築く、という成熟した民主主義社会の在り方を示していること、などが挙げられる。
日本社会にようやく登場した先進民主主義社会の市民の活動、ただ自民党安倍政権になって、警察がどう変わり、この活動が今後も発展していけるか、注視して行く必要がある。
次点は日中間で関係が悪化した焦点の尖閣列島問題で、尖閣列島に上陸し、島の状況を映像で公開したチャンネル桜の代表水島聡さんとなった。水島さんは、船をチャーターし尖閣列島沖に着いてから背中にロープを背負って泳いで上陸。島の現状をビデオに撮って公開した。とにかく現場に足を向け映像を公開するという取材者の原点、基礎を踏まえた活動が評価の対象になった。
最後に今回は選考に漏れたものの、このほかにも日本が抱える問題点を鋭く指摘、告発した優れた作品が沢山あったことを記しておく。
*福島をはじめ各地の放射能被害者の健康を憂慮し、折に触れ日本政府に警告し、被害者への健康上の助言をしているIPPNW(ドイツ支部)の医師たち
*独自の調査で放射能汚染地図を作っては公開している早川由紀夫さん
*放射能問題を長期間取材してきて2012年にも「刑事告発 東京電力 ルポ福島原発事故」を著したジャーナリスト、明石昇二郎さん
大手メディアでも、
*朝日新聞の「プロメテウスの罠」
*東京新聞の「こちら特報部」
*NHKのETV特集など
いずれもすぐれた作品の数々であった。
大貫康雄(選考委員長)
「自由報道協会ファン投票大賞」
秋山理央さん(脱原発デモカメラマン・映像デレクター)