シンポジウム報告「水俣のこれまでと現在、そしてこれから」

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2022.01.19

2021年秋、“公害の原点”ともいわれる水俣病を巡って、ジョニー・デップ主演の米映画『MINAMATA』(ロングライド、アルバトロスフィルム)longride.jp/minamata/とドキュメンタリー映画の鬼才・原一男監督作品『水俣曼荼羅』(疾走プロダクション)docudocu.jp/minamata/が立て続けに公開された。

再び注目を集め始めた水俣病をテーマに、当協会では2022年1月13日(木)都内某所にて、『MINAMATA』の原案となった写真集『MINAMATA』(文藝春秋)を元夫の報道写真家ユージン・スミスさん(1918〜78年)と共に手掛けたアイリーン・美緒子・スミスさんと原一男さんをゲストに迎え、「水俣のこれまでと現在、そしてこれから」と題したシンポジウムを開催した。

水俣病は熊本県水俣湾周辺の化学工場などから排出されたメチル水銀化合物(有機水銀)によって汚染された海産物が原因となり、住民の間で中毒性中枢神経疾患が集団発生した四大公害病のひとつ。

公式に確認されてから今年で66年を迎える現在もなお患者認定の申請は続いており、患者らが国などに賠償を求めた訴訟は終わっていない。しかし、国内全体の関心は“高いとは言えない”というのが現状だ。

今回のシンポジウムでは、ジャーナリズムやノンフィクション、ドキュメンタリーは今日に至るまで水俣病を一体どのように捉えてきたのか?そして、私たちは今後、水俣病とどう向き合っていくべきなのか。各々の作品をもとに、日本国内における構造的な問題をそれぞれの観点から語ってもらった。

アイリーンさんは『MINAMATA』の製作陣からオファーのあった流れを説明し、「世界中の人に知ってもらう良い機会だと思った一方で、戸惑いもあった」と複雑な心境を吐露した。

途中、同問題を示す象徴的な一枚としても有名な『入浴する智子と母』に関して、原さんから「あの作品はどのようにして撮ったんですか?」と撮影模様について質問が飛ぶ場面も。

被写体の上村智子さんが亡くなった後、智子さんの母から「休ませてあげたい」という申し出を受け、写真の公開を停止した経緯なども明らかにされた。

一方の原さんは作品内で、胎児性水俣病患者である坂本しのぶさんが過去に交際した3人の男性を一人ずつ訪ねていくシーンについて言及。

「人間を描く時、性愛とお金を巡る問題は大きなテーマだと思う。作中では“五感の感覚障害”として扱ったが、性の感覚に関することを上手に説明するのは難しかった」と語った。

「これまで公害を扱った作品は、“被害者は正義である”というスタンスのものが多かったように思う。長い歳月を経ても何の問題も解決しようとしないという状況の中にいる時、当事者たちでさえ“解決しない”という渦の中に巻き込まれてしまう。『水俣曼荼羅』では、一人の人間が公害によってどのように追い詰められていくのか、その過程を描くことで、映画を見た人に問いかける作品になるように意識した」という原さんの言葉を受け、アイリーンさんは「日本の社会には良い部分もある」と続いた。

「被害者に対する支援が根気よく続き、被害者同士も強い連帯意識を築いている。スリーマイル島の原発事故をはじめ、海外では大きな事件があった場合でも、原告者が同じように被害を受けた他の原告のことを一切知らないというケースが少なくはない。己の良心に基づいて、協力的な姿勢を示してくれるような弁護士がいる日本では、今後、“繋がること”が大きなキーワードになるのでは」と語った。

アイリーンさんは『MINAMATA』の公開にあわせて、サイン会を行った際に「水俣病のことを何も知らなかった。何かできることはありませんか?」と目の前で泣き崩れた若者の姿が印象に残っていると話した。また、活動を続けている関係者は高齢化が進み、寄付金の受付が未だにネット振込に対応し切れていない等、様々な問題が山積みになっている状態だという。

シンポジウムでは、「作品をきっかけに若い世代にも水俣の真相を知ってもらうことで、行動を促すようなものになれば」という両者の言葉で締め括られた。

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